アサヒエンジニアリング

ユニコーンDH-ES開発HISTORY

「泥水式塩ビ管推進機」が日本の下水道工事を変えた

工営部 係長 小島 功
「泥水式塩ビ管推進機」が日本の下水道工事を変えた

取材日:2016.5.31
「ユニコーンDH-ES」開発メンバーに聞く

現在では一般的な工法として浸透する「泥水式塩ビ管推進機」。しかし開発当時は、塩ビ管で泥水式は不可能と言われていました。そんな常識を覆した推進機「ユニコーンDH-ES」がどのように誕生したのか、開発に関わったメンバーに当時の話を聞きました。

ユニコーンDH-ES

「泥水式」「塩ビ管」「小口径」。
それがこれからの下水道工事に必要なキーワードだった

日本初の「泥水式塩ビ管推進機」の開発はどのように始まったのですか?

開発がスタートしたのは平成4年です。その当時の下水道の状況を振り返ると、下水道普及率はまだ低く、幹線から枝線に工事が移行し始めた時期でした。アサヒエンジニアリングは推進工法を専門にしていますが、枝線に主に使われる塩ビ管に対応する推進機は少なく、塩ビ管は開削かオーガ式で布設せざるを得ない、そんな選択肢に乏しい状態でした。ヒューム管は枝線には大き過ぎるため、どうしても塩ビ管の推進機が必要でした。 さらに地下水位が高い場合は、オーガ式よりも泥水式が適しています。と言うのも、オーガ式は排出する土砂を取り入れる際に地下水も流入してしまうため、地盤沈下の恐れがあるからです。泥水式は、推進機内に泥水を循環させて、さらにポンプで圧力を加えることで、地下水の流入を止めながら土砂を取り込んで掘り進める方式で、取込過多の心配がありません。
この泥水式はヒューム管の推進機では実用化されていましたが、システムが複雑なために小型の枝線用推進機では実現が難しく日本のどこを探しても存在しない機械でした。そのため、小口径のオーガ推進では薬液注入による地盤改良や地下水低下工法を同時に行う必要があり、その分工費が跳ね上がっていました。このような状況を考えると、これから枝線の工事をスピーディに進めるうえで、泥水式の塩ビ管推進は有効になると考えて開発に踏出しました。
私たちは工事を行う会社なので、当然単独で推進機を開発することはできません。そこで親会社でもある須山建設、全国的な販売ネットワークを持つラサ工業、工作機械メーカー、そしてアサヒエンジニアリングの4社による開発チームをつくりました。掲げた目標は4点です。
試験施工の様子[掘進機設置] 試験施工の様子[掘進機設置] 試験施工の様子[掘進機推進状況] 試験施工の様子[掘進機推進状況]
地下水が多い砂礫地盤で推進できる「泥水式」であること。呼び径200mmの硬質塩化ビニル管を推進できること。2mの立坑から発進できること。1号マンホールから到達した推進機を回収できることです。最大の鍵は、いかに泥水式の機構をコンパクト化して小型推進機内に積むかです。もちろんコンパクト化によって性能を落とすことはできません。
様々な土質で工事をしてきた経験を基に理想的な推進機の条件を挙げて、それをどうしたら実現できるかをチームで検討しました。しかし、土の中を進む推進機の開発は特殊で、しかも精度に関しては工作機械並みに欲しいという非常にハードルの高いミッションでした。
開発開始から1年後に試作機が完成しましたが、モーターの圧力調整がうまくいかずに壊れたり、地下水が推進機内に流れ込んで水没したり、方向制御ができずにまったく違う方向に進んだり、様々な問題が出ました。なぜ上手くいかなかったのか、問題ごとに打開策を話し合い、ほとんどすべての設計を改良して平成6年に初号機が完成しました。その結果、試作機からは飛躍的に精度が向上し、目標どおりの性能を達成。そこからは推進機にとって非常に重要な推進延長を伸ばす改良に取り組みました。ポンプの能力アップ、モーターの出力アップ、排出管の口径アップなど、限界まで能力を引き上げて、ついに製品として世の中に出せるレベルを実現しました。私たちはその推進機を「ユニコーンDH-ES」と名付けました。
インタビューイメージ

瞬く間にスタンダードになったユニコーン。
立ち止まらずに始めた礫層への挑戦

完成した「ユニコーンDH-ES」にはどんな反響がありましたか?

完成後すぐにユニコーンDH-ESの説明に全国を飛び回りました。下水道工事の設計に採用してもらわなければ、画期的な工法も活かされないからです。特に地下水に悩まされる地域では「こんな推進機を待っていたんだよ!」と手放しで喜んでもらい、開発して良かったと改めて思いました。工法を知ってもらう活動と並行して施工実績を積み重ねていきました。まずは地元の浜松市を中心に実績をつくり、その実績が日本推進技術協会で紹介されて、全国的に泥水式塩ビ管推進機への関心が高まりました。「ユニコーンDH-ES」は、平成11年に下水道新技術推進機構の技術審査証明を取得、平成19年には日本推進技術協会の黒瀬賞も受賞しています。
平成11年頃からユニコーンDH-ESによる工事依頼が一気に増えました。社員たちがトラックにユニコーンDH-ESを積んで北海道から沖縄まで全国各地を駆け回りました。1年のうち10ヶ月くらい県外にいるような生活で、戻ってきたら子供が生まれていたという社員もいました(笑)。
それから少し経った平成13年に新たな開発に着手しています。ユニコーンDH-ESを礫層に対応させるための面板の開発です。当時、礫層では大きな石を破砕しながら推進しなければいけないため、大型機を使うしかありませんでした。小型機では石の抵抗で機械が負けてしまうためです。礫層には大型機という、推進の常識をもうひとつ覆してやろうという試みです。
それを成功させるためには、ローラービットの形状と配置、そして開口部の大きさを最適にする必要があると考えていました。1次破砕としてローラービットで石に集中的に荷重を加えて砕きます。次に砕いた石を推進機内に取り込みますが、開口部が広過ぎると大きい石が中で詰まりカッタが停止してしまい、狭すぎると石を取り込めません。この最適なバランスを見つけるために試行錯誤しました。石が割れなかったり、方向が振れたり、トルクを上げすぎてシャフトが折れてしまったりと、数えきれないくらいの失敗を繰り返し、ようやく礫層に対応できる面板を完成させることができました。しかも200mmの塩ビ管なら200mmの石を砕くことができる、呼び径と同等の大きさの石に対応する面板です。これは他の工法よりも圧倒的に高い性能です。この面板の登場も礫層の多い地域で好評でした。1台の推進機で、地下水が多い砂質地盤も、礫質地盤も対応できることも歓迎されました。
カッタヘッド カッタヘッド
玉石用ローラビット 玉石用ローラビット
イメージ

「なければつくる」。ものづくりの精神で、
下水道工事にさらなる革新を

ユニコーンはこれからどんな方向性を目指していくのですか?

「ユニコーン工法」審査証明を得る
小島 功 | プロフィール
  • 1996年
    アサヒエンジニアリング入社。
    入社と同時に泥水式塩ビ管推進機の開発チームに参加
  • 2001年
    礫・玉石用カッタの開発に参加
    推進工事技士取得
  • 2003年
    1級土木施工管理技士取得
  • 2015年
    工営部係長
  • 趣味
    ゴルフ、マラソン
礫層へのチャレンジ以降も、いくつかの取り組みを進めています。そのひとつは長距離推進への取り組みです。推進工法にとって距離は非常に重要です。泥水式塩ビ管推進機は70m〜80m進むとポンプ能力が落ちるため、約100mが限界とされています。その限界を超えるために推進機の後方に中継ポンプを搭載したモデルを開発しました。中継ポンプが還流能力を補い、推進距離を150mにまで伸ばすことに成功しています。
また、ユニコーンDH-ESを塩ビ管だけでなく鋼管にも対応させています。これにより鋼管の中に塩ビ管を入れて推進する鞘管推進が可能になっています。さらに現在はレジンコンクリート管への対応を検討中です。塩ビ管だけでなく様々な管への対応を進める狙いは、工事のコストを下げることにあります。例えば、複数の工法で布設する工事の場合は、スパンごとに発注する工事業者を変える必要があり、コストが上がってしまいます。しかしユニコーンDH-ESがオールラウンダーになって1台で複数の工法に対応できれば、工事業者1社で完結することができ、大きなコストダウンが可能になります。
工事業者であるアサヒエンジニアリングが、なぜ推進機の開発をするのかと聞かれこともありますが、私たちは欲しい機械がないなら自分達で作ろうと自然に考えています。ものづくりの街、浜松の気質が影響しているのかもしれません。須山グループの経営理念にも、「常に技術を磨き、施工の完璧をきすべし」「全て業界の模範たるべし」という言葉があります。時代が求める下水道工事を考え、そのために必要な推進機としてつくったユニコーンDH-ESは、日本の下水道普及に貢献できたと自負しています。これからも先駆者としての意識を持ち、社会インフラである下水道工事の効率化を進めていきたいと考えています。

「泥水式」「塩ビ管」「小口径」。
それがこれからの下水道工事に
必要なキーワードだった

日本初の「泥水式塩ビ管推進機」の開発はどのように始まったのですか?

開発がスタートしたのは平成4年です。その当時の下水道の状況を振り返ると、下水道普及率はまだ低く、幹線から枝線に工事が移行し始めた時期でした。アサヒエンジニアリングは推進工法を専門にしていますが、枝線に主に使われる塩ビ管に対応する推進機は少なく、塩ビ管は開削かオーガ式で布設せざるを得ない、そんな選択肢に乏しい状態でした。ヒューム管は枝線には大き過ぎるため、どうしても塩ビ管の推進機が必要でした。 さらに地下水位が高い場合は、オーガ式よりも泥水式が適しています。と言うのも、オーガ式は排出する土砂を取り入れる際に地下水も流入してしまうため、地盤沈下の恐れがあるからです。泥水式は、推進機内に泥水を循環させて、さらにポンプで圧力を加えることで、地下水の流入を止めながら土砂を取り込んで掘り進める方式で、取込過多の心配がありません。
この泥水式はヒューム管の推進機では実用化されていましたが、システムが複雑なために小型の枝線用推進機では実現が難しく日本のどこを探しても存在しない機械でした。そのため、小口径のオーガ推進では薬液注入による地盤改良や地下水低下工法を同時に行う必要があり、その分工費が跳ね上がっていました。このような状況を考えると、これから枝線の工事をスピーディに進めるうえで、泥水式の塩ビ管推進は有効になると考えて開発に踏出しました。 interview_img_06 私たちは工事を行う会社なので、当然単独で推進機を開発することはできません。そこで親会社でもある須山建設、全国的な販売ネットワークを持つラサ工業、工作機械メーカー、そしてアサヒエンジニアリングの4社による開発チームをつくりました。掲げた目標は4点です。 地下水が多い砂礫地盤で推進できる「泥水式」であること。呼び径200mmの硬質塩化ビニル管を推進できること。2mの立坑から発進できること。1号マンホールから到達した推進機を回収できることです。最大の鍵は、いかに泥水式の機構をコンパクト化して小型推進機内に積むかです。もちろんコンパクト化によって性能を落とすことはできません。
様々な土質で工事をしてきた経験を基に理想的な推進機の条件を挙げて、それをどうしたら実現できるかをチームで検討しました。しかし、土の中を進む推進機の開発は特殊で、しかも精度に関しては工作機械並みに欲しいという非常にハードルの高いミッションでした。
開発開始から1年後に試作機が完成しましたが、モーターの圧力調整がうまくいかずに壊れたり、地下水が推進機内に流れ込んで水没したり、方向制御ができずにまったく違う方向に進んだり、様々な問題が出ました。なぜ上手くいかなかったのか、問題ごとに打開策を話し合い、ほとんどすべての設計を改良して平成6年に初号機が完成しました。その結果、試作機からは飛躍的に精度が向上し、目標どおりの性能を達成。そこからは推進機にとって非常に重要な推進延長を伸ばす改良に取り組みました。ポンプの能力アップ、モーターの出力アップ、排出管の口径アップなど、限界まで能力を引き上げて、ついに製品として世の中に出せるレベルを実現しました。私たちはその推進機を「ユニコーンDH-ES」と名付けました。
試験施工の様子[掘進機設置] 試験施工の様子[掘進機設置] 試験施工の様子[掘進機推進状況] 試験施工の様子[掘進機推進状況]

瞬く間にスタンダードになった
ユニコーン。
立ち止まらずに始めた
礫層への挑戦

完成した「ユニコーンDH-ES」にはどんな反響がありましたか?

完成後すぐにユニコーンDH-ESの説明に全国を飛び回りました。下水道工事の設計に採用してもらわなければ、画期的な工法も活かされないからです。特に地下水に悩まされる地域では「こんな推進機を待っていたんだよ!」と手放しで喜んでもらい、開発して良かったと改めて思いました。工法を知ってもらう活動と並行して施工実績を積み重ねていきました。まずは地元の浜松市を中心に実績をつくり、その実績が日本推進技術協会で紹介されて、全国的に泥水式塩ビ管推進機への関心が高まりました。「ユニコーンDH-ES」は、平成11年に下水道新技術推進機構の技術審査証明を取得、平成19年には日本推進技術協会の黒瀬賞も受賞しています。
平成11年頃からユニコーンDH-ESによる工事依頼が一気に増えました。社員たちがトラックにユニコーンDH-ESを積んで北海道から沖縄まで全国各地を駆け回りました。1年のうち10ヶ月くらい県外にいるような生活で、戻ってきたら子供が生まれていたという社員もいました(笑)。 イメージ それから少し経った平成13年に新たな開発に着手しています。ユニコーンDH-ESを礫層に対応させるための面板の開発です。当時、礫層では大きな石を破砕しながら推進しなければいけないため、大型機を使うしかありませんでした。小型機では石の抵抗で機械が負けてしまうためです。礫層には大型機という、推進の常識をもうひとつ覆してやろうという試みです。
それを成功させるためには、ローラービットの形状と配置、そして開口部の大きさを最適にする必要があると考えていました。1次破砕としてローラービットで石に集中的に荷重を加えて砕きます。次に砕いた石を推進機内に取り込みますが、開口部が広過ぎると大きい石が中で詰まりカッタが停止してしまい、狭すぎると石を取り込めません。この最適なバランスを見つけるために試行錯誤しました。石が割れなかったり、方向が振れたり、トルクを上げすぎてシャフトが折れてしまったりと、数えきれないくらいの失敗を繰り返し、ようやく礫層に対応できる面板を完成させることができました。しかも200mmの塩ビ管なら200mmの石を砕くことができる、呼び径と同等の大きさの石に対応する面板です。これは他の工法よりも圧倒的に高い性能です。この面板の登場も礫層の多い地域で好評でした。1台の推進機で、地下水が多い砂質地盤も、礫質地盤も対応できることも歓迎されました。
カッタヘッド カッタヘッド
玉石用ローラビット 玉石用ローラビット

「なければつくる」。
ものづくりの精神で、
下水道工事にさらなる革新を

ユニコーンはこれからどんな方向性を目指していくのですか?

「ユニコーン工法」審査証明を得る
礫層へのチャレンジ以降も、いくつかの取り組みを進めています。そのひとつは長距離推進への取り組みです。推進工法にとって距離は非常に重要です。泥水式塩ビ管推進機は70m〜80m進むとポンプ能力が落ちるため、約100mが限界とされています。その限界を超えるために推進機の後方に中継ポンプを搭載したモデルを開発しました。中継ポンプが還流能力を補い、推進距離を150mにまで伸ばすことに成功しています。
また、ユニコーンDH-ESを塩ビ管だけでなく鋼管にも対応させています。これにより鋼管の中に塩ビ管を入れて推進する鞘管推進が可能になっています。さらに現在はレジンコンクリート管への対応を検討中です。塩ビ管だけでなく様々な管への対応を進める狙いは、工事のコストを下げることにあります。例えば、複数の工法で布設する工事の場合は、スパンごとに発注する工事業者を変える必要があり、コストが上がってしまいます。しかしユニコーンDH-ESがオールラウンダーになって1台で複数の工法に対応できれば、工事業者1社で完結することができ、大きなコストダウンが可能になります。
工事業者であるアサヒエンジニアリングが、なぜ推進機の開発をするのかと聞かれこともありますが、私たちは欲しい機械がないなら自分達で作ろうと自然に考えています。ものづくりの街、浜松の気質が影響しているのかもしれません。須山グループの経営理念にも、「常に技術を磨き、施工の完璧をきすべし」「全て業界の模範たるべし」という言葉があります。時代が求める下水道工事を考え、そのために必要な推進機としてつくったユニコーンDH-ESは、日本の下水道普及に貢献できたと自負しています。これからも先駆者としての意識を持ち、社会インフラである下水道工事の効率化を進めていきたいと考えています。
小島 功 | プロフィール
  • 1996年
    アサヒエンジニアリング入社。
    入社と同時に泥水式塩ビ管推進機の開発チームに参加
  • 2001年
    礫・玉石用カッタの開発に参加
    推進工事技士取得
  • 2003年
    1級土木施工管理技士取得
  • 2015年
    工営部係長
  • 趣味
    ゴルフ、マラソン
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